超軽量! FT-690(mk2)、ピコ6用山岳移動専用10Wリニアアンプ




FT-690mkと
今回製作する10Wリニアアンプ
(FTー690mk2上段の黒い箱)
リニアアンプの大きさに注目!!
放熱板が無いことに気付きましたか?
それが軽量化の最大の決めてです






はじめに

 6mの山岳移動では、現在では唯一のポータブル機になってしまったFT-690mk2がよく使われていて、2.5Wでは飽きたらない人のために専用の10Wリニアアンプ FL-6020が販売されています。FL-6020は本体背面にワンタッチで取り付けられ、面倒な接続ケーブルも不要と使い勝手は非常に良い製品です。しかし、パワーモジュールを使っている影響か、最大消費電流が約3Aと大飯ぐらいで、放熱板が大きくて山岳移動で使うには重量が重い欠点があります。そこで、FL-6020に対抗して小型化、軽量化を最優先に考えた、山岳移動専用FT-690mk2用10Wリニアアンプを製作しました。ただし、本体側に簡単な改造が必要です。このアンプはFT-690では無改造で使えますし、パワーは7W程度に落ちますがピコ6でも無改造で使えます。


小型化・軽量化の決め手は?

 前述のように、FL-6020がでかくて重いのは、外見から見る限りは放熱板が原因のようです。これが無くせれば相当な軽量化ができそうです。さて、それは可能か? 答えはYES。ただし条件付きですけど。
 今回製作するリニアアンプの使用目的は山岳移動専用機です。一般に山岳移動では電源の制約上から短時間の運用で、モードはSSBが中心です。SSBではオペレータの声の大きさに比例して出力が変動し、何もしゃべっていないときには電波は出ません。これに対し、FMでは声を出しても出さなくてもいつも同じ電力が出ています。つまり、おなじ送信状態でもSSBはFMと比較して平均電力が小さいと言えます(ただしピークの電力は同じ)。電力が小さいと電源の消耗が少なく長時間の運用が可能ですし、発生する熱も小さいのです。FMとSSBでの平均電力の比較を定量的に行った資料は見たことがありませんが、経験的にはSSBの方が1/2から1/3くらいでしょうか(もっと小さいかも知れない)。それだけ放熱板が小さくて済みます。FL-6020では、設計した人がFMのラグチューでも放熱が間に合うようにあれだけ大きな放熱板に決めたのでしょう。しかし、SSBでしか使わないと限定してしまえば小さくしても構いません。これが軽量化の決め手です。用途を限定するだけで、何の努力もせずに軽量化できてしまうのです。世の中にそんなコンセプトの製品が存在しないのは、ニーズが少ないからでしょう。
 その他にパワートランジスタの効率の問題もあります。FL-6020では三菱のパワーモジュールを使っていますが、回路が大幅に簡単になるのはいいのですが効率が悪いのです。効率は平均で50%ですから、例えば10Wの出力を出すにはトランジスタには20Wの電力を供給してやります。このうち10Wが電波として外部に出ていきますが、残りの10Wはトランジスタで熱となります。これが効率70%のトランジスタですと、10Wを出して発生する熱は約4.3Wで、パワーモジュールの半分以下になります。効率70%という値はHF用のトランジスタでは難しい値ではありません。今回は回路は複雑になりますが、発熱低減とコストダウンを考えて、CB用のトランジスタ2SC2098を使用します。

 上記2つの理由で、今回は放熱板は付けずにケースを放熱板として利用します。その他、小型化のためにフィルタにはトロイダルコアを使用し、接近してもコイルの相互結合が最小限になるようにしました。コネクタの重さもバカにできないのでBNCにしました。


回路の説明

 リニアアンプの回路自体はごく有り触れたもので、目立った特徴はありません。各種雑誌の回路を参考にしました。ただし、今回は出力の目標を10W以上にしましたので、若干マッチング回路の定数が変わっています。その影響で帯域幅が狭くなってSWRが1.5以下の周波数帯域は約1MHzです。むろん、今回はSSB/CWしかターゲットにしていないので問題ありません。

 出力には高調波によるTVI防止のために、定K型ローパスフィルタを2段挿入しています。山では周囲に人家はないので問題ありませんが、住宅地で使う場合には外付けでフィルタを追加するのが無難です。
 送受信切換回路が通常のアンプと異なっています。一般に、リニアアンプは親機がどんなリグでも接続できるようにキャリアコントロール方式を採用していますが、これですと電波が出てから切り替わるまでに時間がかかり、会話の頭が途切れます。特にCWですと短点が消失することもあります。そこで、今回は親機を改造して、送信時には同軸ケーブルの芯線にDC電圧を乗せるようにします。アンプ側ではDCとRF信号を分離し、DC電圧でトランジスタスイッチを駆動します。トランジスタスイッチは2石で構成し、最終的には中電力PNPトランジスタで電源をON/OFFします。


まずはリグの改造

 本体はなるべくでしたら触りたくありませんが、一度この改造をしておくと他のリニアアンプを接続したり、トランスバータやプリアンプなど、付加機器の送受信切換に広く応用できて便利です。それほど難しい改造ではないので、保証期間が切れていたり、自作をする人なら改造をお奨めします。ただし、改造による故障は筆者は責任を持ちません。各自の責任で行って下さい。過去に2台の改造を行いましたが支障はありませんでした。勿論、FT-690mk2の接続図を調査し、回路的に支障がないからこそ改造したのですが。
送信時に同軸芯線にDC電圧が乗るように、部品(フェライトビーズ及び抵抗)を追加します。改造箇所は比較的やりやすい所にあるので、それほどリグをバラさなくても改造可能です。部品点数も2点だけで簡単です。この方法ですと、リグとリニアアンプの接続は同軸ケーブルだけで良く、使い勝手、信頼性が向上します。TXBは、リグ背面のFL-6020との接続部分にあります。金属板が縦に3つ並んでいる中で基板に「TXB」と書かれているのですぐに分かります。パネル面のBNCコネクタの芯線は、手先が器用な人ならパネルをバラさなくても半田付けできますが、不慣れな人は半田ごてでケースを溶かす恐れがあるので、前面パネルのネジを外して隙間を空けてから作業した方が無難です。抵抗には予備半田しておくと作業がスムーズにいきます。
 改造後の動作確認は、FL-6020を外して690mk2をCWモードにしてPTTを押したときに、フロントパネルのBNCコネクタの芯線に8V程度が出ていることを確認すればOKです。


部品を集めよう

FT−690用10Wリニアアンプ 部品表
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|   品   名     | 個数 |  購入場所  |
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|2C2098       |  1 |  小沢電気  |
|10D1         |  2 |  秋月電子  |
|2SC1815      |  1 |  秋月電子  |
|2SB1375      |  1 |  千石電商  |
|赤色LED        |  1 |  千石電商  |
|緑色LED        |  1 |  千石電商  |
|100P フィルムトリマ |  2 |  千石電商  |
|68P  フィルムトリマ |  2 |  斉藤電気  |
|68P  セラミック   |  5 |  千石電商  |
|100P セラミック   |  1 |  千石電商  |
|0.01uF セラミック |  6 |  秋月電子  |
|10uF 16V 電解  |  3 |  秋月電子  |
|56Ω  1/4W    |  1 |  千石電商  |
|680Ω 1/4W    |  1 |  千石電商  |
|2.2KΩ 1/4W   |  2 |  千石電商  |
|5.1KΩ 1/4W   |  2 |  千石電商  |
|G2V−2 DC12V  |  1 |忘却(^_^;)|
|電源スイッチ       |  1 |  千石電商  |
|0.8D−2V      |  1 |  小柳出電線 |
|ビニール導線       |  1 |  在庫品   |
|T−50−10      |  2 |  斉藤電気  |
|シリコンゴム       |  1 |  千石電商  |
|絶縁ブッシング      |  1 |  千石電商  |
|ケース(YM−100)  |  1 |  千石電商  |
|M3×5 ネジ      | 13 |   適当   |
|卵ラグ          |  4 |  シオヤ電気 |
|ゴムブッシング      |  1 |  千石電商  |
|BNC−R        |  2 |  千石電商  |
|フェライトビーズ     |  4 |  千石電商  |
|φ1mmポリウレタン   |  1 |  小柳出電線 |
|生基板          |  1 |  秋月電子  |
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 早速製作を開始しましょう。部品表に従ってパーツを集めます。少しくらい定数が異なっても問題ありません。近い値の物で代替しましょう。ただし、2SC2098、ローパスフィルタのトロイダルコアと68PFコンデンサは値を守って下さい。特にコアは別の品種を使うと巻き数が合わない場合があります。勿論、それも考慮して別品種を買うなら問題ありません。2SC1815は小信号NPNトランジスタなら何でも使えるでしょう。2SB??も中電力PNPトランジスタで100mA程度コレクタ電流が流せれば可です。出力系のコンデンサの耐圧は500Vが望ましいのですが、10W程度なら普通に売られている50Vの物でも大丈夫です。コネクタは使い勝手、軽量化を考えてBNCにしましたが、少しでもコストダウンしたい人はM型でもかまいません。ただし、コネクタの大きさがケースの高さいっぱいなので、少しでもケースの穴位置がずれるとコネクタが付きませんので工作精度に注意が必要です。ケースは指定の物よりも大きければ問題ありません。これより小さいと、それなりの自作の技術がないと難しいでしょう。リレーは高周波用が理想的ですが、この程度の周波数なら一般的な小信号用で使えるでしょう。ただし電力用リレーはダメです。基板はベークで構いません、というよりも作業性を考えるとベークの方がいいです。ガラエポだとガラス繊維のせいですぐにカッターや鋸、ドリルの歯がダメになってしまいます。また、薄い基板の方が加工が楽です。その他雑多な物としてはシリコングリス、エポキシ接着剤、瞬間接着剤等があります。参考のために筆者の購入場所も書き添えました。なお2SC2098は生産中止になってしまい、在庫があるお店でないと購入できません。ほぼ同じ性能のトランジスタに2SC1945がありますが、ピン配置が異なりますので部品配置が異なります。また、入出力マッチング回路も定数を変更する必要があるかもしれません。2SC1945は放熱フィンがエミッタに接続されていますからケースに直接取り付けることができ、放熱の点では2SC2098よりも有利です。基本的性能は両者とも同様ですので、技術のある人は2SC1945にしてみるのもいいでしょう。今回の設計は2SC2098にしたのは、手持ちの在庫がたくさんあったからです。


必要な工具は?

 ラジオペンチ、ニッパー、ピンセット、半田こて、金鋸、ハンドドリル、ドリルの歯(3mm,4mm,5mm)、ハンドドリル、ヤスリ、リーマ、カッター、万力、定規です。ドリルの歯はいろいろな直径の物が10本組程度でまとめて売られている物が後々まで便利に使えます。これらの物が全て揃っていないと製作できないわけではありません。手持ちの工具を活用して下さい。でも、よく自作をするのなら持ってますね。ボール盤があるとケース加工にかかる時間は半減できますが、ここまで持っている人は少ないでしょう。でも、これは凄く便利です。アンテナ工作やケース加工を良くやる人は、持っていても損はありません。ただ、高価なのと大きくて置場所に困るのが難点。私はボール盤を所有しているローカル局の所に行って加工しています。


製作開始!

 それでは製作に入りましょう。本当なら詳細な加工方法を記述するのが親切ですが、そこまで書くと1冊の本になってしまいます。ケース加工や基板加工、半田付けの詳細は電子工作入門のガイド本を参考にして下さい。ここでは電子工作の基礎知識のある人が読者であると仮定して話を進めます。
 大ざっぱな作業手順は以下の通りです。
(1) ケース加工
(2) 基板加工
(3) 基板の半田付け
(4) 基板単体調整
(5) ケースへの基板の組み込み
(6) 総合調整

 一番面倒なのがケース加工です。また、出来上がったときの外観の良否に一番大きく関わりますので手を抜かないように。前面には電源表示と送信表示のLEDの穴を開けます。一般的なLEDの直径は5mmです。背面は入出力のコネクタ、電源スイッチ、電源ケーブルの穴を開けます。それぞれ現物と合わせながら作業します。終わったらバリを取っておきましょう。
 次に基板の加工です。まず、ケースに入りきる大きさに基板を切断します。ギリギリの大きさだと作業時の誤差でケースに入らないこともありますので、少し小さめにします。次に基板の4隅にケースに固定するための穴を開けます。そして基板の中心付近に四角いトランジスタの取り付け穴を開けます。これも現物あわせで行います。穴の大きさはトランジスタよりも2mm程度大きく開けて、基板の銅箔とトランジスタの放熱フィンが接触しないように注意します。フィンはトランジスタのコレクタとつながっているため、基板とフィンが接触すると電源がショートして電源ケーブルが燃えてしまいます。
 基板の穴開けが終わったら基板をテープ等でケースに仮止めして、ケースの4隅にも同じように穴を開けます。ケースのトランジスタの穴は四角では無くネジの丸い穴です。これも現物に合わせて開けます。絶縁ブッシングが入りますので4mmで開けます。ついでにトランジスタの放熱フィンのネジ穴も4mmに広げておきましょう。現物は3.5mmの穴が開いていますが、このままではブッシングが入りません。これでケース加工はおしまいです。基板もバリを取り、スチールウールで表面を磨いてフラックスを塗り乾燥させます。


組立前の下ごしらえ

 いよいよ半田付けに入る前に下準備が必要です。今回の製作では回路が簡単なのでプリントパターンを起こさずに、先に作った基板の上に小さな基板の切れ端(ランド)を瞬間接着剤で貼り付けて、その間に部品を乗せます。この方がかえって基板製作の手間がかかりませんし、グランド面が広く取れるので安定した動作が期待できます。1cm四方程度のランドを10個くらい作っておきましょう。これも磨いてフラックスを塗ります。
 もう一つ準備。データを参考に空芯コイルを巻きます。組み立てた後で調整が効くのでさほど精度は必要ありません。寸法に神経質にならずに気楽に作って下さい。電源、バイアスのRFCはフェライトビーズに電線を通して作ります。電源用は2回巻き、バイアス用は3回巻きにします。電源用RFCの電線は巻ける範囲で太い方がいいです。足の部分は被覆を削って予備半田して下さい。ローパスフィルタ用のトロイダルコアに巻くコイルは、2つとも7回巻きます。

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|    | L1 | L2 | L3 |
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|内径|10mm|10mm|10mm|
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|巻数|5回 | 5回| 3回|
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|長さ|10mm|10mm|10mm|
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心臓部 基板の組立

全体像

入力部のクローズアップ

出力部のクローズアップ

さて、いよいよ基板の半田付けです。 部品配置の写真を参考にしながら、現物の部品に合わせながらランドを貼り付けて半田付けしていきます。最初に2SC2098を半田付けし、ここを基準に回りの部品配置を決めます。トランジスタの取り付けは少し変わった方法を採用しました。入出力を分離して安定動作を確保する狙いのためです。トランジスタの3本の足の真ん中がコレクタですが、実は放熱フィンはコレクタに接続されています。ベースとコレクタが隣り合っていますので、このままだと入出力のマッチング回路が接近し、磁界やストレーキャパシタを介して結合し、発振する恐れがあります。そこで、真ん中のコレクタは根元で切断し、放熱フィンから卵ラグでコレクタと接続します。この方法ですとトランジスタの頭とお尻に入出力が物理的に分離されて発振しにくくなります。放熱フィンはコレクタに接続されているので、ケース(GND)と絶縁する必要があります。ケースとの間にシリコンゴム板をはさみ、取り付けネジは絶縁ブッシングを通します。ただし、ケースへの取り付けはまだ行いません。この方法ですとネジには高周波信号が直接かかってしまい、運用中に触れたり、リグと接触させると危険です。本当は図とは逆に絶縁ブッシングをトランジスタ側に取り付けるといいのですが、それには卵ラグの穴を4mmに広げる必要があります。ところが、卵ラグは薄い金属板で強度が弱く、ドリルで穴を広げようとしても変形してしまい加工できません。ヤスリで根気よく削ればいいのですが、手間がかかるので今回は上記のような固定方法で妥協しています。新たに製作されるみなさんは、反対にした方が無難です。
 この部分の組立には、仮に基板をケースに固定して行います。そうでないとトランジスタの穴と、トランジスタを取り付けるためにケースに開けた穴の位置がずれて入らない・・・となる恐れがあります。トランジスタを固定したらコレクタ(放熱フィン)、ベースの部分にランドを張り付け、半田付けします。エミッタの半田付けもお忘れ無く。ここまでやったらケースから基板を外して作業します。位置の精度が必要なのは2SC2098の穴だけです。
 バイアス部の10D1は、2SC2098の上面に接触させて、シリコングリスを塗って熱的に結合させます。抵抗、コンデンサ等の部品の足はできるだけ短くカットして、最短距離で半田付けして下さい。安定動作の秘訣です。部品を取って再利用しよう、なんて考えて足を長めにしてはいけません。動作不良のトラブルに泣かされます。イモ半田にも注意。また、時々ケースに入れてみて、部品がコネクタやスイッチに当たらないか確認して下さい。リレー周囲の配線はケースに組み込む段階で行いますのでまだ行わないで下さい。図に示した範囲を組み立てます。



最大の山場 単体調整です

 基板をケースに組み込む前に、基板単体でリニアアンプの動作をするか確認します。ケースに組み込んでからトラブルを発見しても、物が小さいので作業しにくく、せっかく組んだのをまたバラすことになりますので、基板単体でしっかりと調整を済ませましょう。ここで動作の確認を行えば、ケースに組み込んでから動かない場合は基板以外の部分が悪いのは明らかで、故障の切りわけが簡単ですばやく故障個所が特定できます。調整に必要な物は下記の通りです。

・終端型電力計(MAX15W以上) 無ければ通過型電力計とダミーロードを組み合わせて使用。
・SWRメータ
・テスタ(2A 程度の電流計、15V程度の電圧計)
・電源装置 13.5V 3A以上 できれば電流制限機能付きが望ましい
・ワニ口電線
・接続用同軸ケーブル
・トリマ調整用の絶縁物でできた調整棒
 まず、入力と出力にコネクタ付きのケーブルを半田付けします。そうしないとリグやSRWメータ等と接続できません。1.5D-2Vで作っておくと引き回しがしやすくて重宝します。リグやSWRメータとの接続ケーブルも1.5D-2Vが適当です。20cmくらいの長さの物を2、3本作っておくと何かと便利です。電源ケーブルも付けます。電源ケーブルの+,-間の抵抗値をテスタで測定し、数kΩ以上ならOKです。ゼロだったり、非常に低い値の時にはどこかで電源系統とGNDが接触したり、パスコン関係が不良と思われます。チェックして下さい。試験中はトランジスタが発熱するので、ケースを裏返しにして、ケースの外側に仮に基板を固定して、ケースを放熱板として利用します。前記のようにトランジスタの放熱フィンとケースはシリコンゴム、絶縁ブッシングで絶縁して下さい。勿論、普通の放熱板やアルミ板に取り付けて試験しても構いません。トランジスタの放熱フィンとケースが導通していないか確認して下さい。
 図のように接続し、690をFMモードにして、自分のよく使う周波数に合わせます。2.5Wで送信し、SWR計の表示は無視してパワーメータだけ見ながら、入力マッチング回路の2つのトリマ、続いて出力マッチング回路の2つのトリマを、出力が最大になるように調整します。もし、トリマの羽がいっぱいに入ったり、逆に抜けきったところで最大パワーになる場合は、コイルを延ばしたり縮めたりして、もう一度調整します。どうしてもうまく行かないときにはトリマと並列に入っている固定コンデンサの値を増減したり、コイルの巻き数を1回増減させて再調整します。ほとんどの場合はコイルの巻き数を変更する必要はないはずです。うまく調整できれば10W近く出ます。なお、調整中はまだアンプのSWRが高い状態で、親機に悪影響を与えますので、できるだけ短時間の送信で調整して下さい。
 次にSWRメータを見ながらSWRが最低になるように入力の2つのトリマを調整します。若干パワーが落ちますが、仕方ありません。SWRは悪くても必ず1.1以下にできます。
 以上の調整は、まだバイアス電流を流していませんのでブースターとしての動作ですが、いよいよリニアアンプとしての調整に入ります。とは言っても今までの調整でほとんど終わっています。出力側のRFCを外して電流計モードにしたテスタを接続します。2SC1815のベースに5KΩの抵抗を仮に半田付けし、抵抗を電源と接続します。するとテスタに電流が流れます。この電流値が20〜40mA程度であることを確認します。えらくかけ離れている場合はバイアス部に誤配線がありますのでチェックして下さい。正常でしたらRFCを元に戻します。
 電源を再投入してパワーメータの振れを見ます。このとき、リグは受信状態のままにして下さい。当然ながら、入力がないので出力も無いはずですが、もしパワーメータの針が振れていたらアンプが発振している証拠です。きっと電流計の振れも大きいでしょう。このままでは使えないので、パスコンのセラミックコンデンサを追加したり、入力側のRFCと並列に1kΩ程度の抵抗を入れたり、トランジスタ上に入出力を分離するようにシールド板を立ててみます。でも、図のように部品配置を真似すればたぶん発振はしないでしょう。オリジナルの部品配置は、発振しにくいように考慮して決定していますし、4台製作して4台とも発振しませんでした。もともと、CB用のトランジスタを高い周波数で使っているので利得が低下して発振しにくくなっています。

 発振しないことが確認できたらFT-690を送信状態にして、パワー最大、SWR最低になるようにトリマを再調整します。でも、今までの調整でベストポイント近くにあるはずで、ほとんどトリマを回す必要はないでしょう。パワーはさっきよりも増えて10W以上出るはずです。
 ここまでくれば、全体の90%は完成したようなものです。基板単体は立派なリニアアンプとして動作しました。


いよいよ最終組立

 調整の完了した基板をケースに組み込みます。要所に小型コネクタを使用すれば簡単に基板をケースから取り外せるようにできますが、コネクタ代がバカにならないので、直接ケーブル等を半田付けします。したがって、修理で基板を取り出すには何カ所も半田を外さなくてはいけないので、作業は慎重に行います。くれぐれもトランジスタの絶縁は忘れずに。
 まずケースにコネクタを取り付け、そして基板を組み込みます。最初に基板を固定してしまうとコネクタが基板上の部品に当たって入らないことがあります。ケース内にあまり隙間が無いのが原因ですが、小型化のためには我慢です。基板を固定したら電源スイッチ、LEDを取り付けます。送受切換リレーは銅テープでシールドしましたが、たぶんしなくても問題ないでしょう。ただ、シールドするとピンの近くまでGNDがくるので、同軸ケーブル等の半田付けの時に楽になります。コネクタのアース側は、卵ラグで基板のGNDと接続します。同軸ケーブルの外皮に頼るよりも、しっかりした接続ができます。内部配線用の同軸ケーブルは0.8D-QEVを使って下さい。1.5D-2Vでもいいですが曲げ半径が小さくできず、配線に苦労します。大した距離ではないので損失も気にならず、0.8D-QEVの方が作業性が大幅にアップするのでお奨めです。
 作業が終わったら配線ミスがないか入念にチェックして下さい。ここまでできたのに壊したのでは泣けてきますよ。


これが最後、総合調整です

 最初は上図からSWRメータを抜いてセットアップします。モードをCWにしてPTTを押し、リレーが切り替わることを確認します。もし切り替わらない場合は送受信切換部をチェックしてください。次に入力側にSWR計を入れます。この状態ですとSWR計のタイプによりますが、PTTを押しても送信状態にならない時があります。これはものによってはSWRメータ内部がDC的に絶縁もしくはショートされているためです。このときは、2SC1815のコレクタをワニ口クリップ付きのケーブルでGNDに接触させて、強制的にリニアアンプを送信状態にして下さい。リグから送信してSWRが下がっていることを確認します。もし上がっていたらトリマを再調整します。また、出力が最大になるようにも調整して下さい。OKなら蓋を閉め、SWR、パワーを確認します。若干出力の増減はありますがさっきとほぼ同じなら完成です。パワーの低下が気になる人は、蓋を閉めた状態でパワーが最大になるように再調整して下さい。どうです? 15Wくらい出たでしょう。10W以上出ていれば合格です。電流は出力電力によりますが、15W程度なら1.8〜1.9A程度に収まっていることと思います。動作が確認できたらLEDが引っ込まないようにケース内部でエポキシで固めてしまいます。これでLEDの頭が押されても大丈夫、エポキシの接着力は相当です。


注意事項など

  (1)  アンプの放熱板は、山岳移動でのSSB運用に必要な最小限の大きさです。気温の
       高い場所やFMで長時間運用するときには過熱に注意して下さい。
  (2)  誤って10Wを入れるとトランジスタを破壊する恐れがあります。ドライブ電力には十分
       注意して下さい。
  (3)  内部は電源逆接続保護ダイオードにより保護されていますが、逆接続するとダイオード
       が導通して電源ケーブルには非常に大きな電流が流れ、ケーブルが燃える恐れがあります。
       必ず外部に2〜3Aのヒューズを入れて下さい。
  (4)  ケース上面に絶縁ブッシングを介して取り付けられているネジは、パワートランジスタのコレクタに
       接続されていて高周波電力がかかっています。運用中は手で触れたり、リグに
       接触させないように注意して下さい。絶縁テープ等で覆うのも有効な手段です。
       ただし、放熱効果が落ちますのでネジ以外の部分を覆わないで下さい。
  (5)  一応ローパスフィルタが入っていますが、人家のない山岳運用用に作っています。
       スプリアス抑圧が充分であるといえるか不明ですので、固定で使用する場合は
       ローパスフィルタを外付けすることを推奨します。もしくはトロイダルコアを使用したフィルタを
       内部に追加して下さい。
  (6)  小型化/低コスト化のために高周波系のコンデンサの耐圧にはあまり余裕がありません。
       アンテナのSWRが高いと定在波がコンデンサの耐圧を越えて故障の原因となります。
       極力、アンテナのSWRは低く保って下さい。


最後に

 いかがだったでしょうか。山岳移動と用途を限定することにより、市販品よりもはるかに小型・軽量化したアンプができました。コスト的にもFL-6020の半額以下でできたことでしょう。今となってはリグの自作では性能、コストともメーカ製品にはかないませんが、リニアアンプは充分自作のメリットが出ます。6mくらいの周波数ですと、それほどシビアな技術は要求されないので、ちょっと経験がある人ならきっと完成できると思います。小型・軽量なので山に持って行くには最適です。自作の機器で電波を出して遠くの局とQSOできたときの感激は格別です。みなさんも自作品で電波を出す楽しみを味わって下さい。

DE JS1MLQ 川田聡


完成品の写真をアップしましたので製作の参考にしてください。