ハンディーGPSで山登り

 

1. 前置き

 

  私は山岳移動運用しかやっていませんので半分山屋です。いや、99%山屋で無線屋の部分は1%くらいかも。しかも、自分で言うのも何ですが、一般登山者というより無差別登山者とでも言うべきでしょうか、ガイドブックに記載のない山、道のない山にもたくさん登っています。そんなある日、私と同じようにどこでも登る山仲間から「ハンディーGPSはとても便利だ」との情報が入り、色々考えましたがいくつかの体験を経て購入を決断し、2002年10月にハンディーGPSを購入しました。それ以来、ずいぶんGPSに助けられました。 

 

 インターネットで調べると、ハンディーGPSについての記事を多数見かけますが、実際の山登りのツールとして紹介している記事はほとんど見たことがありません。もっぱら自分の歩いた軌跡(トラックログ)をPCで吸い上げて、帰ってからどんなルートを歩いたかの記録作りに役立てる記事ばかりで、肝心の山登りのナビとしてどんな使い方ができるか、また実用度はどうか書いた物はほとんどありませんでした。一般的にはGPSは「実用ツール」というより、まだPCマニアの「遊び道具」らしいです。 

 

 そのようなわけで、この記事はハンディーGPS本来の目的である山登り用ナビゲーターとしての使い方、使い勝手のレポートです。しかも、登山道がなく自力で登る必要がある山でどれだけ使えるかを中心に書いています。登山道がある山でもGPSは使えますが、道が無い山でこそGPSの真価が発揮されます。トラックログは山登りでは使わないのでここでは一切書きません。同様の理由でパソコンとの接続についても書きません。

 

 フリーソフトの「カシミール3D」を使いパソコンとGPSを接続すればデータ入力に便利ですが、車で出掛けた後にデータを入れようと思ってもパソコンがないとできなくなってしまいます。ここではあくまでGPS単体での使い方を述べます。カシミールの使い方はインターネットで調べればたくさん出てきますので、そちらを参照して下さい。また、私が持っている機種が無印eTrex英語版なので、メニューや画面等はeTrex英語版について記述します。他機種では異なりますが、基本的なメニュー、表示はおよそ同じようなものです。

 

 最初に結果を申し上げますが「藪山では一度ハンディーGPSを使うと2度と手放せない」です。まだ一部の人しか使っていませんが、これは山岳界の革命と言えるツールだと思います。読図能力がある人でないと使いこなせませんが、読図能力のある人なら地形図と磁石と組み合わせることで、今まで以上に正確なルートを辿れ、しかも今のルートが間違っていないことに確信が持てるようになります。

 

2. ハンディーGPS導入のきっかけ

 

 

  以前からハンディーGPSを欲しいと思っていましたが、今年登った木曽御嶽継母岳が決定的でした。継母岳は木曽御嶽西側山腹にありますが登山道はなく、標高、地質から考えればザレ場の斜面が予想されます。御嶽は火山ですので山頂付近の山腹には顕著な尾根はなく、どこも同じ様な斜面です。視界があれば楽勝ですが、ガスった場合は道が無く特徴のない河原のような斜面を磁石だけを頼りに正確に下って継母岳に取り付くのは至難の業と思われました。おそらく、すぐ横を通り過ぎても分からないでしょう。磁石以外の頼みの綱は気圧を元にした高度計ですが、私の経験では±150mの誤差は覚悟しなければならない。高度計を頼りにしてもかなり下りすぎないと分からないし、行き過ぎが分かっても左右どちらにピークがあるのかもわかりません。幸い、登った当日は高曇りでガスりませんでしたが、もしガスったらGPS無しでは登山を断念したでしょう。

 

 もう一つは北アルプス槍ケ岳近くの西鎌尾根縦走の時です。初日は夕方から雨でガスがかかり、翌朝には雨は止みましたが濃いガスと強風で、大半の人は縦走を諦めて停滞か新穂高温泉方面へと下っていきました。こちらは目的地は槍ではなく新穂高温泉へ下るので、稜線に長時間滞在するわけもないので計画通りに縦走することにしました。最初の樅沢岳は標識からちょっと登ったところが山頂で問題なかったのですが、左俣岳の山頂を捜すのに苦労しました。地図と違って登山道は左俣岳北側を巻いていて、それも前後していくつもピークがあるのでガスって視界がないとどのピークが山頂なのか分からないのです。全部のピークを越えていけばどこかで山頂にたどり着きますがそれでは体力消耗が激しいし、そもそも山頂に標識がなかったらアウトです。私の場合、行きすぎて次のピークに到着した時点で気付き、戻って山頂に立ちましたので時間と体力のロスが大きかったです。

 

 以上のような場合にGPSは絶大な威力を発揮します。この2件の体験でGPS導入を決断しました。

 

3. ハンディーGPSってどんな物?

 ハンディーGPSは文字通り手のひらサイズのGPSレシーバーです。左の写真のように大きさは携帯電話程度で、私が使っている機種では長さ11cm×幅5cm×厚さ3cm、重さは150g、電池は単3×2本で連続22時間動きます。本体にアンテナを内蔵しており、白黒液晶画面と操作用ボタンが4つ、電源ボタンが1つのシンプルな構造です。各種操作は基本的に4つだけのキーで行いますので片手でOKです。メーカーも機種も多くなりましたが、現時点ではアメリカのGARMIN社が製造している「etrexシリーズ」が最も多く使われているようです。外観はどれもほとんど同じですが、色や画面の解像度、細かい機能で差があります。測位性能(誤差)はどれも同じです。なお、左は無印eTrex英語版(一番安価な機種)の写真です。

 

4. ハンディーGPSで何ができるか

  ハンディーGPSは年々進化し、今ではカーナビ並みに地図を搭載して自己位置を地図上で表示できる機種まであります。こいつは4万円以上する高価な機種ですし、国土地理院の数値地図が使えず、専用地図データを購入しないといけない(2万円くらいしたような)し、専用地図は等高線間隔が50mで登山道等の記載は無しですので2.5万図よりずっと見劣りします。そんなわけで地図表示できる機種については触れず、今回書くのはもっと基本的な機能についてです。

 

 一般的なハンディーGPSの機能は、目的地(山頂や小屋等)までの距離と方向を表示することです。画面としてはコンパスのような針で(もちろん液晶表示)目的地の方向を示し、数字で目的地までの直線距離を表示します。たったそれだけの機能か!なんて思う人が多いと思いますが、たったこれだけでも道のない山では非常に役に立つのです。GPSは現在位置の緯度経度を測定する物ですから緯度経度も表示できますが、はっきり言ってその数値のままでは利用価値はありません。インターネットで記事を見ていると、GPSで緯度経度を調べてマップポインタ等で地図上で現在地をプロットするような使い方を見受けられますが、これはほとんど山に登らない人や読図できない人の発想だと思います。こんな面倒で時間のかかる作業は最初の数回は我慢できるでしょうが、そのうちGPSは面倒で使えないもんだ!と放り投げることになるでしょう。少し読図能力がある人なら(万全の読図能力でなくていい)、ハンディーGPSに搭載された本来の機能、つまり、目的地の方位、距離表示と周囲の地形で地図上の現在位置が読めます。道に迷って全く現在位置がわからなくなった場合でも、山頂の方向、距離の逆算で、その山頂からどっちの方向に何m離れた場所にいるのかわかってしまうので、道迷いによる遭難防止に大きな効果があるでしょう。れを作ったGARMINの技術者だか製品の企画者は慧眼の持ち主に違いない! 目的地の方位、距離として情報表示するメリットは大変大きいです。

 

5. ちょっと細かいハンディーGPSの機能

  前項で述べたのが主要で最重要な機能でしたが、ハンディーGPSはその他にもこんな機能があります。代表的なものだけ書いておきます。

 

 ・バックライトがあり夜間も使用可能(でも電池を喰うのでお勧めできない)

 ・バックトラック(来た道を引き返す機能。でも樹林帯ではほとんど使えない)

 ・地図表示(ほとんど使えない。入力データの確認用)

 ・時刻表示(かなり正確。でも腕時計があるから使わない)

 ・標高表示(嘘をつくことが多いが、条件が整えば気圧式高度計より相当正確)

 ・移動速度表示(暇つぶしにはなる)

 ・GPS衛星の受信状況表示(これが無いと表示の信用度が分からない)

 ・緯度経度表示(使ったことがない)

 

6. GPSの利用価値がある山

  GPSはどんな山でも使い道がありますが、整備された山ではGPSを持っていく意味は薄いです。ただ山頂までの距離が減っていくのを楽しむだけ。GPSが真価を発揮するのは登山道がない&樹林等で視界がないマイナーな山のうち、以下のように読図が難しい山です。登山道がある場合でも山頂標識がない場合は役立ちます。

 

・富士裾野にある寄生火山のように、尾根等明白な地形がない中にポツンとある山

・のっぺりした地形で山頂がどこにあるかわかりにくい山 

・いくつも同じくらいの高さのピークが連なる山 

・枝尾根にある山を主稜線側から攻める場合

 

7.GPS利用登山の基本

  1年数ケ月間GPSを利用してわかりましたが、GPSを使った登山の基本は「山頂付近までのアプローチは地形図による読図がメインで尾根の屈曲点等わかりにくい所のみGPSを使用し、最後の詰めにGPSを使う。下山は方位磁石と同程度しか役立たないと思え」です。小さな山ならともかく、通常の日帰りの山をGPSだけで歩くことはできません。方位磁石のように、GPSはあくまでも登山の補助道具でしかありませんので、これさえあれば地図が要らないなんてことはありません(一部のスーパーマンを除く)。そして、意外に思われるかもしれませんが、GPSを使うときには方位磁石が必須です(方位磁石内蔵機種を除く)。

 

 高級機種のようにハンディーGPSに地図表示ができる機種なら地図も要らなくなるかも知れませんが、未だそのレベルに地図データが到達していませんし、たとえそうなっても樹林帯ではGPS電波が受信できないので現在位置が分からず、結局は最後は人間の読図能力が必要になります。読図能力がない人にGPSは使いこなせませんし、逆にGPSによって読図能力が落ちることもありません。GPSにより自分の読図結果が正しいかどうかの判定が短時間ででき、もし間違ったとしても短時間で気づくことができて、時間、体力のロスを最小限に抑えられます。私もGPSを持っていない頃の歩き方では、複雑な地形だと自分の判断には常に不安がつきまとい、はっきりした地形に出るまで判断が正しいか確認のしようがなくビクビクしながら歩いていましたが、GPSの導入により判断材料が増えて多少は安心して歩けるようになりましたし、間違ったルートを取ったとしても、変な方向に山頂が表示されたり(この機能が一番使える)、距離が減っていくはずがいっこうに減らなかったりと比較的短時間で間違いに気づくことができるので安心度が高いです。ルートに確信が持てずにあちこちウロウロする時間が無くなったのが一番大きいです。これは私の師匠も同じで(夜の藪山に登る怪人)、道がない山に登る場合の最強ツールであることは間違いありません。

 

8. 初期設定

  山で使う前にいくつかの初期設定が必要です。ここではeTrexシリーズの初期設定について書きます。

 

(1) 測地系

  測地系とは簡単に言えば「地球の形」のことです。地球は完全な球ではなくいびつな形をしていますが、そのいびつさのモデルがいくつかあります。地球の形によって緯度経度は変わってしまいますので、どの形を使用するか選択する必要があります。日本では日本なりのモデルがあり、地形図の緯度経度もそれにあわせて記載されていますが、近年世界標準の世界測地系に変更されました。今(2003年夏現在)流通している地形図は日本測地系、世界測地系の緯度経度が一緒に記載されていますのでどちらでも可能です。私は手持ち資料の関係で日本測地系「TOKYO」を使用しています。なお、国土地理院のホームページではデガデガと出ている緯度経度は世界測地系で、その下に小さく出ているのが日本測地系ですのでご注意を。

 

(2) 緯度経度表示フォーマット

  何種類かありますが、これが入力データと一致していないと位置がとんでもなくずれます。みなさまがご使用の緯度経度データのフォーマットにあわせて下さい。国土地理院HPの緯度経度をご使用の場合、表示は「**度**分**秒」の形式ですので、GPSメニュー中の「hddd゜mm'ss.s"」を選択して下さい。そしてGPSに緯度経度を入力する際は、秒の少数1桁は常にゼロを入力します。

 

(3) 距離の単位

  GPSでは目的地までの距離が表示されますが、長さの単位をいくつか選べます。我々日本人の場合はメートルが一般的なのでメートル「METRIC」にします。他にマイルやノーティカルマイルなどもあります。

 

 以上3項目が重要な設定で、あとはどうでもいいです(^_^;) 特に測地系、緯度経度表示フォーマットは間違っているとGPSは使い物になりません。今後、自分が使うデータの測地系、フォーマットがどうなっているのかよく確認してから設定しましょう。上記はあくまで筆者が使っている緯度経度資料に基づいた設定ですので、みなさんの環境と同一とは限りません。

 

(4) 時間

  設定しなくても構いませんが、時計として使う場合に便利ですので日本標準時にしておきましょう。メニューに「TOKYO」がありますのでそれを選択します。時差は自動的に+9時間になります。これで時刻表示は日本標準時になります。設定しない場合は世界標準時になり、日本標準時よりも9時間遅れます。

 

(5) 北の方向

  真北と磁北のどちらかを選択できます。方位磁石と組み合わせて使うので私は磁北にしています。たかが数度の違いですのでどちらでも大差ありません。

 

(6) バックライト点灯時間

  バックライトを点けると電池寿命が短くなるので、私の場合は一番短い15秒にしてあります。夜間使う場合は連続点灯が便利。ちなみにバックライトは電源スイッチを短く押すと点灯/消灯します。

 

(7) 測位間隔

  何秒間隔で位置データを更新するかが設定できます。機種によって異なるようですが、etrex英語版では省エネモードにすると1秒に1回になるようです。歩きならばこの程度でちょうどいいです。

 

 以上を設定すれば初期設定は完了です。パソコンにつないで遊ぶ場合は他にも設定が必要ですが、山で使う場合はパソコンにつなぐ必要はありません。GPSと山の緯度経度が書かれたデータさえあればOKです。ただし、既に述べたようにGPSに設定したフォーマット、測地系が入力するデータと合致していないと酷い目に遭います。

 

9. 登山での使用方法

 

9.1 概要

  山でGPSを使う手順をまとめると以下のようになります。

 

出発前に目的地やチェックポイントの緯度経度をGPSに入力する

出発時に現在位置をGPSに登録する(登山口と下山口が同じ場合)

最初のチェックポイントを選択し、ナビゲーション画面にする 

チェックポイントに到着したら次のチェックポイント/山頂に切換えナビを継続する

山頂から下山時は上りとは逆の順番でチェックポイントを切換ながら歩く

最後は出発地点を目標にしてナビで歩けば出発地に到着

 

9.2 目的地の緯度経度入力について

  前項で書いたように、ハンディーGPSを山で使うには目的地の緯度経度を予めGPSに入力する必要があります。GPSは目的地の緯度経度と現在地の緯度経度から、目的地の方向と距離を計算するのですから当然です。簡単な山としては山頂データだけ入れれば良いと思いますが、複雑に尾根が屈曲している等、間違いやすい地形がある場合はそこのデータも入れておくと便利です。

 

  山頂やチェックポイントの緯度経度をどうやって知るかですが、手っ取り早いのは国土地理院のホームページの地形図閲覧システムです。目的の地形図を呼び出して目的地をクリックすると緯度経度が表示されます。ただし、大きな文字で表示されているのは世界測地系の数字で、下に小さく出ているのが日本測地系ですので間違わないように。その他に「カシミール3D」というパソコンのフリーソフトでも緯度経度がわかるそうです。そして、このソフトを使えばパソコンからGPSに場所の名前と緯度経度データを転送でき、面倒な手入力をしなくていいそうです。これは関連HPが多いのでインターネットで捜して下さい。私は使った経験がありませんが、正直言って無印eTrexやsummitは文字や数字入力が無茶苦茶面倒なので興味はあります。指にまめができるのではないかというくらいのやりにくさです。

 

  それと、紙の地形図から道具を使ってポイントの緯度経度を調べることができます。測研という会社で「マップポインター」なる透明な下敷きみたいなシートを出しており、これで地形図上の緯度経度を調べることができます。使った経験がないので使い勝手はわかりませんが、パソコンなしで調べられるので便利だと思います。価格は\1000弱で、通販で購入可能です。詳しくはホームページでどうぞ。

 

 山頂だけの緯度経度でしたら、白山書房から販売されていた「FD版日本山名総覧」が便利だったのですが、今は販売していないのが残念です。私はこれを紙に印刷した物を、山に出掛けるときはいつも持っていきますので、出先で山頂の緯度経度を知ることができます。もちろん、途中の尾根屈曲点まではわかりませんが、GPSに表示される山頂の方向と読図能力があれば山頂データだけでもどうにかなります。しかし、山頂の緯度経度が書かれた紙の資料が無いのは困りますねぇ。どこかで出版してくれるといいのですが。極秘?情報によると、来年春に某社から山頂の緯度経度データ入の山名事典が出るようです。地形図に名前が記載された全ての山+アルファのデータが掲載されるようなので、GPS登山者には見逃せない出版物になりそうです。

 

9.3 出発地の登録

  これは帰路用です。帰りに道が分からなくなった場合でも、この緯度経度が分かれば戻ってこられます。

 

9.4 目的地(チェックポイント/山頂)へのナビゲーション

  ここが核心です。GPSで目的地を選択し、ナビゲーションモードにして方位、距離を表示させて歩きます。基本的には山歩き中はこの画面しか使いません。MAP画面がありますが、あれは藪山では全く使えません。ナビ画面では山頂の方位は矢印で、距離は数字で表示され、矢印の指し示す方向に歩いていけば目的地に到着できます。ただし、GPSの表示は直線距離と方向であることを忘れないで下さい。途中に絶壁があろうと徒渉不能な沢があろうと直線方向、距離しか表しません。だから山頂から遠いほどそのままでは使えないわけです。あくまでも地形図を見ながら歩き、GPSの情報を参考にして現在位置と取るべき進路を考えます。だから読図能力が欠かせません。

 

  しかし、山頂の方向表示はとてつもなく貴重な情報となります。例えば群馬県安中市にある「御殿山」の例ですが、最短コースは稜線沿いを走る黒実線から南下するコースです。しかし、この尾根は樹林で覆われているのでピークは見えませんし、林道から30mほどはタダの斜面ではっきりした尾根はなく、どこを下っていいのか分かりません。しかし、GPSを見ながら林道を歩き、山頂が真南に来た付近で斜面を注意深く下れば目的の尾根に乗ることができるのです。実際の現場を歩きましたが、あれはGPS無しでは非常に難しい。同行者もGPSの威力を目の当たりにして驚いていました。樹林が無くて視界があれば何でもない山ですが、樹林やガスで見えない山でも山頂の方位が分かるというのは本当に素晴らしいことです。

 

  GPSの威力を知る例が他にもあります。奥秩父従走路近くに「大常木山」がありますが、何個もの同じ様な高さのピークの連続で、現場に行ってもどこが山頂なのかサッパリ分かりませんでした。縦走路から外れた主稜線なので山頂標識もありません。もっとも、あったとしてもその標識の位置が正確なのか信頼性に難があります。こういう時にこそGPSがあればバッチリです。行政で建てた物も手製の山頂標識も、正確な山頂に設置されてない物もありますので簡単に信用してはいけません。誰も間違えるようなことのない簡単な山なら間違える方が少ないですが、地形が複雑で山頂に三角点が無い場合などは要注意。

 

 目的地"付近"にたどり着くと「ARRIVING DESTINATION」の表示が出ます。日本語で書けば「目的地に到着しつつあります」でしょうか、ARRIVINGが微妙な表現です(^_^;) しかし、どこまで近づいたらこれが表示されるのかはマチマチで、まだ100mも離れているのに表示されることもありますし、20mくらいで出ることもあります。

 

 目的地が山頂のみの場合は、下山時は目的地を出発地に切り換えてナビゲーション画面を見ながら歩けばOK。途中にチェックポイントがある場合、チェックポイントに到着する度に次のチェックポイントを選択してナビを継続します。GPSには「ルート設定機能」があって、チェックポイントを順番に登録しておけば、自動的に次々とチェックポイントを切り換える機能もあります。使ったこと無いけど。

 

 そんなわけで、山歩きで使う場合は目的地を選択し、ナビゲーション画面にしておいて下さい。山歩きではこの画面しか使いません。

 

 しかし、GPSにも弱点はあります。詳細は後述しますが樹林帯では電波が減衰して受信できる衛星数が不足し"絶対方位"が正確とは限らず、矢印の方向に歩くととんでもないところに歩かされることがあります。矢印ではなく、画面中のEWSN文字と矢印から山頂方向を確認し、方位磁石で正しい方位を求めて歩く必要があります。ですから、GPSを使う場合は片手にGPS、片手に方位磁石、時々地図に持ちかえてルート確認という妙な姿となります。森林限界や木が無い山以外では方位磁石は必須で、方位磁石がないとGPSを使う意味が消失すると言っていいでしょう。意外に思われる人が多いと思いますが、1年以上、合計200山以上道がない山を歩いての経験ですので間違いありません。樹林帯において、GPSの矢印方向は信用してはいけません

 

 また、尾根下りにおいて分岐に遭遇したとき、GPSでどっちの尾根が正しいか判断するためには手間をかけなければなりません。尾根の屈曲点ごとに緯度経度を入力してルート入力しておけば、常に目的地が進行方向正面になって順調に残距離が減っていくので、間違った尾根に入ると徐々に方向が狂ってくるし距離の減り方がどんどん少なくなってくるため正しいルートかどうかわかります。しかし、それだけデータを入れるのは大変ですし、地図では読みとれないような微妙な地形があるとアウトです。私の場合、そこまでデータを入れるのは面倒なので山頂以外は顕著なピーク等ルート上の1,2カ所しか入力しません。そうなると方位磁石と読図能力の勝負です。下山ではGPSに頼るより方位磁石の方が威力を発揮します。

 

 下りでの最強の武器はずばり、GPSとは対照的に古典的な「目印」。登りで目印を付けていって下りはそれを頼るのです。尾根の分岐は登りでは自然な合流となるので、慣れないと目印が必要になる場所がわかりませんが、下りで何度か迷えばポイントになる迷いやすい地形はイヤでも覚えられます(^_^;) はっきりした尾根は迷うおそれはないので目印は不要ですが、尾根が消えてだだっ広い斜面になっていたり、肩や小ピークがあったりする場所は要注意です。これは同一ルートピストンでないと使えませんが、わざわざ道のない藪山で縦走はやらないでしょうから順当な方法です。なお、目印は一種のゴミなので回収するか、自然消滅する材料を使いましょう。私は師匠のアイディアをいただいてトイレットペーパーを結びつけています。これならそのうち雨で消滅します。

 

  なお、ナビゲーション中は衛星電波を受信する必要がありますので、画面上部に内蔵されているアンテナを上空に向けておく必要があり、私の場合は手で持ちながら歩いています。ずっとGPSが必要な山ってのはほとんどないので、いつもは電源を切ってウェストポーチに入れておき、必要なときだけGPSを取り出しています。ポケットに入れていたこともありますが、藪にからめ取られたことがあって止めました。ただし、常時電源を入れていないと電源投入から衛星捕捉まで1分くらいかかるのが難点。仲間ではザックの肩紐にGPSを入れるポケットを縫いつけている人もいます。この状態ではGPS画面は見えませんが、手に持てばもう衛星捕捉状態になっているのでタイムロスがありません。

 

10. 応用

  山中でナビゲーションとして使う以外にも、こんな応用があります。

 

(1) 藪を突破するか迂回するかの判断

 ちょっとの藪なら突破しますが、見渡す限り激藪の場合はGPSの残り距離を見て強行突破するか迂回するか判断します。もちろん狭い尾根では迂回は無理ですが、緩やかな尾根では下り気味にトラバースしながら藪が薄くなるところまで迂回した方が早い場合があります。富士寄生火山で強烈な笹藪に遭遇し、残り300mの距離を見て断念し迂回したら藪がない斜面に出て楽々登れたこともあります。逆に残り100mを切る場合はがむしゃらに突進し、山頂に出たこともあります。距離が分かるというのは便利です。

 

(2) 登山口(取り付き点)へのアプローチ

 ちゃんとした登山口がある山なら迷うことはありませんが、例えば道の無い山で長い稜線の途中にあるピークに登る場合、林道が稜線に沿って延びている場合は、林道のどこから斜面に取り付くか判断が難しい場合が多いです。山頂が顕著で麓から見える場合は問題ありませんが、肩に隠れて見えない、林道両脇が樹林で見えない、ガスって見えない等山頂が目視できない場合は顕著な尾根でない限りは最寄りの尾根がどれなのかほとんどわかりません。こんな時にGPSの本領発揮。林道を走って距離が最短になる場所から登ればいいのです。群馬県の榛名南面にある鐘撞山はまさにこれでした。林道の途中にあってどこかで歩きにしなければならないのですが、登山道もないしどこが山頂なのか見ても分からない。しかし、GPSで山頂が真西に来る場所で車を降りて西に歩いて適当な尾根に取り付いて歩き、無駄なく山頂に立つことができました。ある面では山歩きに使うよりも便利だったりします。

 

 同様に、道のない山でどこからでも適当に登ればいい山の場合は、GPSで最短距離を示す場所を探し、そこから一直線に登ればいいので、時間も労力も削減できます。ただし、忘れてはならないのは、あくまでもGPSが示す距離は直線で、間に障害地形があるかもしれません。必ず地形図を見て一直線に登れるか確認する必要があります。

 

 なお、GPSをダッシュボードに置けば電波を良好に受信できます。不思議なことに座席でも受信できることがあります。まさか鉄の天井を電波が突き抜けてくるわけでもないだろうに。

 

(3) 簡易カーナビとして使う

 主要幹線を走っていて渋滞に巻き込まれて脇道に入る場合、地図を見なくてもとにかく目的地の方向にさえ走っていればいつか目的地に到着できます。GPSに目的地を仕込んでおけば知らない道でも矢印の方向に走っていけば大丈夫。田舎道で現在どこにいるのか分からない場合にも有効です。登山口の緯度経度を入力してナビに使うのも便利です。

 

(4) 高度計の校正に使う

 ホームページなどではGPSは高さ方向の誤差が大きいと書かれたものを目にしますが、私の経験では誤差は10m以内で大変正確で、気圧式高度計の精度とは桁が違います。GPSは衛星が4つ以上受信できると正確な標高を計測できますので、この時に高度計を校正すると、衛星が3つ以下しか受信できない場合に高度計で高度を知ることができます。もちろん高度計なら電波が届かない樹林中でも使えます。なお、etrexシリーズのsummitでは高度計(気圧計)を内蔵しており、GPSで正確な高度を計測できる状態になると高度計を自動校正してくれます。

 

(5) MAP表示で入力データの誤りをチェックする

 GPSはナビゲータ画面の他に地図画面が出ます。ただし、地図なんて言葉を使うのも恥ずかしい画面で等高線や道は出るはずもなく、まっさらな背景に現在位置と入力済みの目的地が緯度経度の位置関係通りの場所に表示されるだけです。でも、これを利用すれば入力データに間違いがあるかチェックできます。例えば尾根に沿って縦走する場合、各ピークは直線状に並んでいるはずですが、入力ミスがあると位置関係がおかしく出るのですぐ分かります。ただし、周囲にデータが無い山だとこの芸当はできません。GPSで目的地の緯度経度入力を間違えると悲惨な目に遭いますので、間違いないか慎重に確認して下さい。

 

11.GPSの限界

 GPSは万能の神ではありません。限界を知らないでGPSに頼りすぎた歩き方をすると遭難する可能性すらあります。様々な制限事項を説明する前に、簡単にGPSの動作原理を書いておきます。

 

 GPSは4つのGPS衛星電波を受信することで正確な緯度、経度、高度を計測します。これは衛星からの電波の時間差を計測することで位置を計算するからで、X,Y,Z(東西南北及び高さ方向),t(時刻)の4つの未知の解を解くために4つの電波が必要なわけです。しかし、高度は測定しないとすれば3つの衛星だけで測位が可能となります。eTrexシリーズは3つしか衛星を受信できない場合は高度測定を諦めるようです。また、一度3つの電波を受信してGPS内部の時計を正確な時間にあわせれば、しばらくは2つの衛星電波で緯度経度を測定できます。ただし、精度は時間経過とともに落ちます。

 

(1) 電波が受信できない場所がある

 電波は山を突き抜けることはできませんから、谷筋で空が見える範囲が狭いとGPSの電波が山で遮られて受信できません。ですから、今までの経験からすると沢歩きではほとんど使えないと思います。もちろん、開けた谷なら受信できますが、衛星の配置によっては受信できない場合もあります。

 

 また、これが一番やっかいなのですが木の葉で電波が弱くなること。衛星放送なんかはこれがあるので木を避けて衛星方向の空が見える所に設置しますが、GPSの電波は衛星放送よりもずっと低い周波数(1.5GHz付近)ですので、衛星放送ほど葉っぱや雨で減衰することはありません。雨の影響はほとんどありませんが、木の葉は影響が出ます。今までの経験では落葉した樹林では電波は良好に受信できましたが、葉が茂っていると絶望的です。深い針葉樹林(杉、檜を含む)では受信不可能な場所も多く、GPSに頼りすぎないよう注意が必要です。地図を見ないでGPSだけで歩いていたら、樹林中で突如受信不能になって現在位置さえ分からなくなった・・・・なんてことも考えられます。必ず地図も見ながら歩く必要があります。経験的には自然林よりも植林地帯で樹木の密度が高い場所の方が受信できません。富士の青木ケ原樹海でさえ自然林内ではほとんど受信できました。ただし受信できる衛星数はほとんど2つでした。でも、南アの道無きシラビソ樹林はほとんど受信できませんでしたし、広葉樹が茂る樹林でも受信不可能となる場合が多いです。藪山の場合、樹林があるのが当たり前なのでこれが一番困ります。

 

(2) 初期捕捉の条件が厳しい

 GPSはナビゲーション開始時に最低でも3つの衛星が受信できないとナビ画面になりません。これは2つの衛星では内部時計精度が保証できないからと思われます。ただし、前記のように樹林帯では3個の衛星を受信するのは難しく、できるだけ樹林の薄いところを捜して衛星が取れるまで待つしかありません。電池がもったいないですが、樹林中を歩く場合は一度衛星捕捉ができたら電源を入れっぱなしにしておくのが無難です。一度初期捕捉できれば電源を切るまで2つの衛星だけでもナビを続けてくれます。衛星が受信できない状態になっても2つの衛星電波を受けるとナビ画面が出ます。

 

(3) 受信できても嘘をつく場合がある

 衛星を3つ以上受信できている場合は表示はそこそこ正確なようですが、衛星が2つの場合は時々嘘をつきます。急に距離が増えたり減ったり。これは衛星受信状況画面を見て、いくつ衛星が受信できているか、受信強度はどれくらいかを確認するしかありません。経験上は嘘をついている時間はそれほど長くなく、電波状態が悪い地帯を抜けると正常な値に戻ります。ただし、今出ている値が信頼できるのかできないのかははっきり言って判断できません。データの信頼度でも一緒に表示してくれるといいのですけどねぇ。

 

(4) 「絶対方位」が正確とは限らない

 GPSは進行方向に対して山頂がどちらにあるか表示しますが、これが意外に不正確です。ただし、矢印と一緒にEWSNの文字で方位も示していますが、この文字と矢印の関係は正確です。例えば矢印がEを指していれば山頂は東にありますが、もしEが正面を指していても正面が東とは限らないのです。漫然とGPSの矢印の方向に歩いていてはいけません。実際に、GPSを見ながらウネウネした道を歩いても矢印の向きが全く変わらないことは良くあります。これはGPS衛星を2〜3個しか受信できていない時に生じ、葉の茂った樹林中では矢印の方向に歩くのは危険です。わざとジグザグに歩いて矢印の方向が変化するかで確認するか、衛星受信状況画面で見るのもいいでしょう。矢印方向が信用できるのは木が無い場所だけと考えて下さい。

 

  また、衛星が4つ以上受信できている場合でも、立ち止まっていると正確な方向は出ません。これはGPSは1秒毎の緯度経度の変化から移動方向を計算しているためです。立ち止まったまま後ろを向いても矢印の方向は変わりません(summitを除く)。

 

  以上のことから、GPSを使って歩くときでも方位磁石を用意し、矢印が指すEWSN文字から山頂の方位を知り、方位磁石でその方向に歩くのが正しい使い方です。みなさん、磁石は既に持っているでしょうし。私の仲間も山を歩くのにGPS、方位磁石、地形図の3点セットです。現代の登山版三種の神器と言えるでしょう。

 

  なお、etrex上位機種のsummitだと方位磁石を内蔵しています。他機種は前述のように衛星受信状態で矢印の信頼性が変わってしまいますが、summitでは方位は内蔵方位磁石で測定しますので電波状況には無関係で高い信頼性が得られます(もちろん衛星が1つ以下しか受信できないとナビできない)。私も1度使ってみましたが、これが便利。いつもは片手にGPS、片手に方位磁石で2つを見比べながら歩きますが、それがGPSだけでいいのはとっても便利です。一度使うと病みつきになること請け合いです。ただし、値段が倍以上するのと電池の持ちが少々悪くなるのが難点。電池はeTrexで22時間、summitで16時間です。しかもsummitで方位磁石ON状態ではニッケル水素電池で動かなかった例があります(電池の種類にもよる)。電池は我慢できる範囲としても、価格がちょっと。みなさまは懐具合とご相談して下さい。

 

(5) 高度はもっと信用がおけない

 絶対方位より信頼性が低いのが高度です。GPSは4つの衛星電波を受信しないと正確な高度を計測できません。しかし樹林中で4つ以上受信するのはほぼ無理で、上空が開けた尾根以外では信用してはいけません。正しい使い方は衛星が4つ以上見える開けた場所で高度を測定し、別に高度計を持っていってその校正に使うことです。樹林中では高度計を頼りにして下さい。etrexは今何個の衛星が受信できているのか確認する画面があります。ページボタンを何回か押すと衛星の番号と受信強度が表示されます。黒いバーが受信できている衛星で、バーが4本以上表示されていれば高度表示は正確です。

 

(6) 必ず誤差を伴う

 GPSは必ず誤差があります。平均的な誤差は±15mと言われますが、衛星の配置によって誤差は異なります。eTrexシリーズでは初期捕捉完了時に誤差が表示されるので親切設計ですけどね。また、別の誤差もあります。紙の地形図から緯度経度を読み取る際に発生する誤差です。国土地理院HPの読み取り誤差は±50mとか話を聞きましたから、GPSそのものよりも誤差が大きい。私が使っている山名総覧データではGPS測位誤差を含めて平均で±20m程度、最大で±50m程度でした。隣のピークに行ってしまうほどの誤差はありませんが、のっぺりしたところで三角点を捜す場合は誤差は頭に入れないと三角点を発見できないかと。

 

(7) 緯度経度の入力ミスに注意

 これがたまにあるんです。数字を間違えるととんでもないことになります。たかが1秒でも100mくらい違ったかなぁ。山に入ってしまうと数字が間違っているか確認しようがないので、入力する際によく確認して下さい。1回間違えたことがあって、その時はGPS無しで登りました。まあ、これはGPSの欠点ではなく人間の欠点ですが。入力する際は何度も確認が必要です。データ入力をミスった場合はGPSに頼らないで読図で登って下さい。

 

(8) 電池切れに注意

 GPSは電池が切れるとタダの箱、何の役にも立ちません。難しい地形の山中で突如電池切れになると悲惨なので、必ず予備電池を持っていきましょう。私は乾電池ではなく充電式の電池を使っていますが、電圧が乾電池より低くて歩いている最中に電池後れの経験は何度もあり、予備電池が手放せません。設定画面にすると電池残量が表示されますので参考にして下さい。

 

(9) 藪での紛失に注意

 通常の登山道を歩いているときはGPSを落とす心配はありませんが、藪漕ぎをしているときは注意が必要です。ポケットに入れておくと、ストラップがはみ出して藪に絡み取られる恐れがあります。私は2回やられ、笹の激藪の中を何往復もしてようやく発見した経験があります。藪漕ぎの際はきっちり蓋を閉められる場所に収納しましょう。ザックの肩紐等に固定している場合も、藪ではしっかり収納しましょう。

 

12.歩く場合のGPS設置方法

  ずっと手で持っているのも鬱陶しいので、歩いている最中はどこか受信状況のいい場所にGPSを入れておきたいものです。トラックログを取得するだけならザックの雨蓋に放り込んでおけばいいのですが、ナビとして使うにはそれでは出し入れが面倒で使えません。仲間の何人かはザックの肩紐にGPSを入れられるポーチをくくりつけ、見る必要の無いときにはそこに入れています。ちょうど携帯電話の入れ物が使えるようです。マジックテープ等でポーチをザックに付ければ手間がかかりません。この方法だと頭で電波が邪魔されますが、そこそこ上空が開けますので問題ないようです。私はまだ試していませんが、そのうちやってみたいです。

 

13.電池について

  みなさんは乾電池を使っていると思いますが、使い捨てはちょっともったいない気がしますので、私は充電式のニッケル水素電池を使っています。乾電池の電圧は1.5Vなのに対して充電式電池は1.2Vと低いため持ち時間は短くなりますが、経験的には10時間は持つようで、日帰りならば十分です。充電式電池は1本\300程度ですので、何回か使えば元が取れます。充電器も売っていますので試してみてはどうでしょうか。私の場合、デジカメも単3ニッケル水素電池で、ヘッドライトもそうなので予備電池の使い回しがきいて本数を減らせます。

 

  また、長期縦走で少しでも重さを減らしたい方にはリチウム乾電池がお勧め。重さは普通の乾電池(アルカリ乾電池)の半分、しかも電池の持ちはアルカリの約3倍ですので、普通の使い方なら1週間近く使えるのでは。ただし、値段はアルカリ乾電池の倍以上したかな。

 

  最近は単3電池×2本とサイズが同じ充電式のリチウムイオン電池が登場しました。会社の同僚の情報で、アドレスはここです。私はまだ使ったことがありませんが、リチウムイオン電池は電圧が3.6Vと高く、電池が無くなるまで完全に使い切ることができます。ニッカド電池やニッケル水素電池は電圧が1.2Vと低く、少し電圧が下がっただけでeTrexは動かなくなってしまうのとは反対です。インターネット探すと見つかるようで、会社の同僚はデジカメの電池にニッケル水素電池を使ってましたが電池の持ちが悪くてリチウムイオン電池に変えたところ使用時間が劇的に延びたそうです。

 

14.GARMINのハンディーGPS eTrexシリーズの紹介

 一番広く使われているGARMINのハンディーGPS eTrexシリーズにはいくつか機種がありますので、実用性が充分で安価な機種に限定して少し触れておきます。サイズ共通で長さ11cm×幅5cm×厚さ3cm、重さは150g(電池を含む)。電池は単3×2本で連続15〜22時間。操作箇所は側面に5箇所。電源スイッチ、画面切換ボタン、決定ボタン、上下スクロールボタンです。片手で操作OKです。

 

機種

概算価格

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無印eTrex英語版

\17,000

初代eTrex。基本機能しかありませんが、山でナビゲーターとして使うには充分な機能を搭載しています。販売店によっては日本語のマニュアルが付いてきますので安心です。もっとも、初期設定と基本的な使い方は取説を読まないと分かりませんが、一度覚えてしまえば英語で表示されようと全く問題ありません。ただ、目的地の名称がアルファベットと数字でしか表示できないだけの話です。

無印eTrex日本語版

\23,000

英語版のメッセージが日本語になったのと、目的地名にカタカナが使えるようになったこと以外の機能はほとんど変わりません。

eTrex venture英語版

\22,000

無印eTrexよりも液晶解像度が上がっているのと、前面にゲーム機のパッドのような上下左右に動かせるポインティングデバイス(クリックスティック)が付いているのが異なります。解像度が上がったために細かい文字を表示できるようになったため無印eTrexよ目的地名文字数が長くなってます。同じ名前の山を登録するときに地域名を追加したりして区別できます。スティックの追加が画期的で、初代eTrexで最も面倒だった文字入力が格段に楽になりました。

eTrex venture日本語版

\38,000

英語版のメッセージが日本語になったのと、目的地名にカタカナが使えるようになったこと以外の機能はほとんど変わりません。

eTrex summit英語版

\30,000

無印eTrex英語版に方位磁石、気圧計を内蔵させたもの。方位磁石をどんな条件時に使うか設定できます。衛星電波が弱くても矢印が正確な方向を示すのは感動モノ。これでventureのように画面解像度が高くてクリックスティックが付いていれば言うこと無いのに。

eTrex summit日本語版

\36,000

英語版のメッセージが日本語になったのと、目的地名にカタカナが使えるようになったこと以外の機能はほとんど変わりません。

 

  eTrexシリーズとしてはこの他にlegend、vista等地図表示ができる機種がありますが、最初に書いたようにお値段も高く、国土地理院の数値地図が使えず、専用地図データを購入しないといけない(2万円くらいしたような)し、専用地図は等高線間隔が50mで登山道等の記載は無しですので2.5万図よりずっと見劣りします。それでも地図が出た方がいいという人なら購入してもいいですが、今までの経験からすればventure以下の安価な機種でも充分役立ちます。

 

 また、見て分かるように英語版と日本語版では機能はほぼ同じなのに価格に大きな差があります。たぶん、日本語版は日本代理店の依頼による少量生産(納期からして受注生産かも?)なのに対して英語版は世界中で大量販売されているのが理由かと思います。英語といってもナビで出てくる英語は文章ではなく単語だけですし、数も少ないので英語版で全く問題ありません。英語版であっても日本の代理店で日本語マニュアルを添付するのが普通ですので、英語マニュアルを読まなくて使えます。

 

15. お勧めのハンディーGPS 

  コストパフォーマンス、操作性を考えるとeTrex venture英語版でしょう。無印eTrex英語版でもナビゲーション機能はventureと全く同じですが、文字入力であのクリックスティックを一度使うと二度と無印eTrexには戻れません。私の山の師匠もventure英語版で満足しています。でもsummit英語版も捨てがたい。入力は面倒ですが、山でのナビ機能はsummitに軍配が上がります。ただしventureよりも高い。地図機能がないvista(venture+summitの機能を持った機種)英語版があるといいのいですがねぇ。

 

16.まとめ

  以上のようにハンディーGPSには様々な制限がありますが、それを理解した上で利用する分には大変便利なツールです。視界に見えない山頂がGPS上で見えるのが最大のメリット。地形図の読図を手助けしてくれます。100%GPSだけで歩くことはできませんが、地形的な難関の突破時には威力を発揮します。登山道がある山ではGPSの価値はほとんどありませんが、マイナーな山では活躍の機会が大いにあります。藪山派のみなさん、「GPSは邪道だ!」なんて考えずに使ってみましょう。読図能力を落とす器具ではなく、我々の読図能力を補助する器具です。正しいルートか疑心暗鬼で歩くところがちょっとは安心できますし、少なからず遭難防止になると思います。一番安い機種で\2万弱で購入できますので決して手の届かない価格ではありません。CASIOの腕時計式高度計PROTOREKシリーズや同じくSUNNTの腕時計式高度計よりも安価です。高度計より安いのに高度計の100倍は役立つのは間違いありません。一度体験するとコストパフォーマンスの高さに納得してもらえると信じています。

 

17.おまけ

  車の中でカーナビ代わりに使用するには、簡単な台があると便利です。単純にダッシュボードに置くと画面が水平になり、外界の光が反射して画面が見えません。少し傾けて画面を運転席側に向けてやるとよく見えます。衛星の電波が良好に受信できるよう、できるだけダッシュボードの前方に置いて下さい。なお、エアコン吹き出し口に近すぎると、GPSが暑くなったり冷えすぎたりで正常に動かなくなることがあるようですので設置場所には注意しましょう。

 

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