無線機とニッケル水素電池


1. はじめに

 現在、世間で最も使われている電池は、リチウムイオン2次電池とニッケル水素電池ではないでしょうか。アマチュア無線界ではリチウムイオン電池はまだまだ目新しい存在でメーカ無線機内蔵電池しか使われていないと思いますが、ニッケル水素電池は山岳移動運用電源として、ハンディー機の電池として広く使われていることと思います。まだ鉛シールドバッテリーを使っている人もいると思いますが、ニッケル水素電池でどれほど軽量化できるか、具体例を紹介したいと思います。

 

2. シールドバッテリーとの重量比較

 鉛バッテリーとニッケル水素電池でどれほど重量差があるか比較してみましょう。容量はいくらでもいいですが、QRP運用で手軽な2.2AHとしました。

 

電池種類 容量 重量 価格
シールドバッテリー 2.2AH 950g \2200
ニッケル水素電池 2.3AH(10本) 30g×10 = 300g+電池ケース \3500前後

 

 なんと重さは1/3以下。価格もちょっと高いだけなので、山に担いでいくならニッケル水素電池が圧倒的に有利です。逆にシールドバッテリーと同じ重さのニッケル水素電池を持っていくなら運用時間は3倍に増やせます。それに同じ容量に見えますが、ニッケル水素電池は5時間率なのに対してシールドバッテリーは20時間率なので、ニッケル水素電池の方が容量が大きいです。これは、すぐにでもニッケル水素電池に乗り換えるのが賢明でしょう。ここまで大差があるとは知らなかった・・・。10本直列で使う場合は単3×10本用電池ボックスが市販されているので、それを利用すればきれいに収納できます。


3. 裏技? リニアアンプパワーアップ法

 なんとニッケル水素電池を使うと外付リニアアンプがパワーアップできます。その方法とは「電源電圧を上げる」です。リニアアンプの出力電力は電源電圧の2乗に比例するので、シールドバッテリーの12Vで10Wていたとすると、ニッケル水素電池12本直列の14.4Vにすると14.4Wに増えます。シールドバッテリーは電圧が6Vか12Vに固定されているので(中身はもっと細かいのですが)電圧調整はできませんが、組電池のニッケル水素電池だからこそ細かい電圧設定が可能です。通常、無線機の方はALCを行って電源電圧で出力電力が左右されないよう安定化されていますので、電圧を上げてもパワーは上がりません。

 

4. 放電特性

 ニッケル水素電池の放電特性を左図に示します。使い始めの電圧は約1.4Vあり、1.2〜1.3Vで長期間安定して1Vで放電終了です。ですから10本直列だと最初は14Vあって、12〜13Vで安定して10V でおしまいです。その点、シールドバッテリーは13V〜10.5Vくらいが電圧範囲であり、ニッケル水素電池の方がやや電圧変動が大きいです。それにシールドバッテリーは消耗に比例して電圧が低下するので、最初から最後まで電圧変動は緩やかなのが特徴です。ニッケル水素は放電終期でガックリと低下するので、相手にファイナルを送る余裕もなくブチっと電源が落ちる可能性が高いです。また、瞬時に流せる最大電流もシールドバッテリーの方が大きいですが、無線で使うぶんにはあまり関係ないか。過放電に対する強さはニッケル水素電池の方が上です。

 

5. 充電方法

 ニッカド電池やニッケル水素電池は定電流充電です。通常の充電では0.1Cで12,3時間程度、急速充電では1Cで1.2時間程度です。自作も可能で秋月でキットを販売しています。これは充電用ICを使っているので急速充電も可能です。完成品を購入しても価格的に大差ないか。秋月の製品だと12Vで動くキットがあるので、これを使えば車で出かけた先で充電可能になり、長期の旅行に便利です。


 もちろん、定電流回路を自作してもOKです。定電流回路は左のようなLM317を使うのが一番簡単な回路でしょう。ただ、シンプルなので充電完了を検出する回路はなく、タイマー等で時間を計って充電を打ち切らないと過充電になってしまいます。


(簡単な計算方法)
・充電時間を15時間とした時の充電電流は電池容量の 1/10 となります。
例)単3 1600mAH の場合
  1600 / 10 = 160mA で15時間充電。


・ 電流を固定した場合の充電時間の算出方法
充電時間 [H] =  電池容量[mAH] X 1.5
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   充電電流 [mA]

6. 自己放電

 初期のニッケル水素電池は自己放電が激しく、1週間も放置するとかなり電気が無くなってしまうほどの品種もあったそうですが、今ではカタログを見る限りではニッカド電池と比べて遜色ないレベルになっています。現にピコ6に入れっぱなしで1ヶ月くらい放置しても問題なく使えています(多少は減っているのかもしれないが実感できないレベル)ので、あまり敏感になる必要はなさそうです。でも、電池一般に言えることですが、温度が高いほど自己放電は早くなるので、充電してしばらく使わない場合は冷蔵庫に保存することをお勧めします。これじゃまるで生ものだ(^_^;)

 

7. メモリー効果

 ニッカド電池同様、ニッケル水素電池もメモリー効果があります。できれば使い切ってから充電して下さい。もしくはリフレッシュ機能付きの充電器を使って下さい。私の場合、充電前に豆電球につないで放電させてから充電するようにしています。ただ、電球が負荷だとどれだけ電圧が落ちて過放電になっても電流が止まらないため、逆に電池に悪いかも。目で見ていて電球が暗くなったら止めるのが一番です。

 

 まあ、アマチュア的にはメモリー効果はあんまり気にしなくても大丈夫のような気もしますが。

 

8. 無線で使う場合の落とし穴

 無線機で使う場合、送信時の消費電流がかなり大きいのが一般電子機器と大きく異なる点です。どの電池でもそうですが、大きな電流を取り出そうとすると容量が減ってしまい、小さな電流だと容量が大きく見えます。取り出す電流によって容量が変化するので、メーカーでは容量測定時の条件を決めています。そうでないと正確な比較になりませんから。5時間率と言われるもので、5時間で電池を使い切るような電流を流した時の容量です。例えば400mAを5時間流して電池切れになったら400mA×5時間=2000mAHです。現在市販されているニッカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池とも全て5時間率での容量です。


 ということは、5時間率の放電電流より大きな電流を取り出すと容量は低下します。しかし、どれくらいの電流でどれくらいの容量になるのか、詳細なデータが簡単には見つかりません。そして、困ったことに大電流放電での容量低下具合がメーカによって大きな差があるのです。この性能が悪いと送信時に電圧が急激に低下してリグの電源が落ちてしまいます。また、容量だけでなく電池内部抵抗の大小も問題になります。内部抵抗が大きいと電流を多く取り出すと電圧低下が起きてしまいます。電池残量がいくらあっても電圧が低くなって機器が動かないのでは話になりません。


 店頭では大電流放電特性は明示されず、5時間率容量のみ表示ですので購入者は情報がありません。前もって調べるしかないのが現状ですが、データがないのでは調べようがありません。そうなると実際に測定するか口コミしかない・・・。


 今までの経験からすると、最悪なのが秋月で販売しているGP社。FT-690mk2の消費電力でしたら全く問題なく使えるのですが、FT-817になるともうダメです。10本直列でも2.5W送信で電源が落ちます。これは大電流での容量低下ではなく内部抵抗の高さが原因と思われます。デジカメに使ってもかなり時間が短いです。デジカメの機種によっては起動しない恐れも。デジカメだと1A以上電気を喰いますので、ある意味で無線機よりも条件がきついです。それに対して最も評判がいいのはパナソニック。ここは唯一1C放電や2C放電特性グラフをHPに掲載しているだけあって、大電流放電特性に自信があるようです。三洋電機製も大電流特性がいいようですが、パナソニック製と比較するとどうなのか不明です。三洋電機のHPでは放電特性グラフは出ていませんでした。ただ、HP等を見ると三洋電機もニッケル水素電池電極材料の研究では最先端を走っているようで、低温特性、大電流特性も新製品が出るごとに向上している模様です。


 なお、ちらと調べた限りでは、国内でニッケル水素電池を生産しているメーカーは三洋とパナソニックの2社だけのようで、他社はこの2社からOEM供給を受けているようです。インターネットで検索しても、ニッケル水素電池の開発に関してはこの2社が突出して記事が発見できます。大型電池は分かりませんが、単3程度の小型電池は上記2社で寡占状態なのでは? とすれば、とりあえず国内メーカのニッケル水素電池ならこの2社のどちらかが製造元なので、安心して使えると思います。


 以上のようにGP社の電池は大電流放電に弱いですが、小さな電流で使うぶんにはちゃんと容量は保証されます。私はピコ6で使っていますが電池を使い切るまでえらい時間がかかります。価格が安いのは魅力なので、電流の大小で使い分けるのも手だと思います。

 

 と書いたのですが、さっきGP社のHPを見たら(英語)データが掲載されていました。それを見る限りでは大変すばらしい数字です。私が使っているのは1600mAHのですが、最近になってもっと容量が大きい製品が出ているので、もしかしたらそっちは新技術を投入して性能向上したのかなぁ。気になる内部抵抗値は記載されていませんが、1C、2Cとかの大電流放電特性が出ており、パナソニック製電池といい勝負です。しかも温度特性まで出ていて、-20℃でも室温時より20%しか容量低下がないです。これが本当ならパナソニック製と肩を並べる性能でしょう。

 

GP社製 大電流放電特性 パナソニック製 大電流放電特性

 

 

9. 最後に

 以上のように、ニッケル水素電池はシールドバッテリーと比較して、移動運用電源としてははるかに軽量化が可能ですし、価格も馬鹿高いわけでなくアマチュアの財布の範囲で充分購入可能です。皆さんもぜひ使って下さい。あとはGP製ニッケル水素電池の実力が、本当にカタログ通りか興味があるところです。誰か、レポートしてくれ〜

 

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